大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成8年(ワ)4924号 判決

原告

株式会社エム・シー・アンド・ピー

右代表者代表取締役

斉藤正昭

右訴訟代理人弁護士

平田薫

被告

大飯町

右代表者町長

古池和廣

右訴訟代理人弁護士

俵正市

重宗次郎

苅野年彦

坂口行洋

寺内則雄

小川洋一

井川一裕

横山耕平

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は原告に対し、四七六五万一三七〇円及びこれに対する平成七年六月二六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告の町制施行四〇周年記念行事の企画競技(以下「本件企画競技」という。)に応募して採用された原告が、被告に対し、主位的に、記念イベント及びイベント講座の計画・準備・実施に関する委託契約(以下「本件委託契約」という。)ないしその予約が成立していたことを前提に、これを一方的に解除されたことに基づく損害賠償として、予備的に、契約締結上の過失ないし不法行為に基づく損害賠償として、四七六五万一三七〇円及びこれに対する解約通告日である平成七年六月二六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、宣伝広告の企画制作等を目的とする株式会社である。

2  被告は、原告に対し、平成五年七月初めころ、本件企画競技に応募するよう勧誘し、同月九日、被告町役場において、本件企画競技への参加を予定した原告、第一法規出版株式会社及び株式会社ぎょうせいの各業者に対し説明会を実施し、本件企画競技は町制施行四〇周年記念行事の企画に当たり専門的な立場から指導、助言等を行う業者の選定の参考に資するために行うこと、本件企画競技への参加報酬は税込で一社一〇万円とするが、業務を委託されたときは支払わない等の説明をした(乙第一九号証の1ないし3)。

3  原告は、右勧誘に応じて、同年八月二〇日、被告に対し、以下の内容を骨子とする「大飯町町制四〇周年記念イベント企画『出来事づくり町づくり』〜一年間を通じて大飯町・住民が作る、人と文化と風景の祭典〜〈基本計画案〉」と題する書面(甲第五号証の1、以下「本件企画書」という。)を提出した。

(一) 記念イベント全体のゼネラルプロデューサーは、株式会社二一世紀ディレクターズユニオン社代表取締役林信夫(以下「林」という。)とする。

計画段階及び実施段階の組織案は、それぞれ別表「計画段階の組織案」及び同「実行段階の組織案」のとおりである。

(二) 本件企画

(1) 町政施行四〇周年記念行事として一年を通して次の七つの記念イベントを行う。

① 平成六年一一月ころ プロローグイベント「火起こし式」(以下「火起こし式」という。)

② 平成七年一月一五日 オープニングイベント「町制四〇周年記念式典・開会式」

③ 同年四月一五日 春のファミリーウォーク

④ 同年七月二二日 夏のファミリージャンボリー

⑤ 同年八月一二日 メインイベント「炎の伝説」(以下「メインイベント」という。)

⑥ 同年一一月一一日 秋のファミリーフェスティバル

⑦ 同年一二月末ころ エピローグイベント「町制四〇周年記念イベント閉会式」(以下「閉会式」という。)

(2) 記念イベントを行う前に、住民を対象とした自治体主催の「イベント講座」を、企画編、制作編、運営編各四回の合計一二回開講する。この講座の基本的な意味は、受講生を中心に出来事づくり(イベントづくり)による町づくりを行ってゆくことにあり、受講生は記念イベントにスタッフとして参加する。

(三) 本件企画の予算計画は、次のとおり合計一億九九〇〇万円である(消費税は別途請求する。)。

(1) 企画費 七〇〇万円

(2) プロデュース費 一四〇〇万円 (3) 広報費 一九〇〇万円

(4) イベント講座 五〇〇万円

(5) 火起こし式 三〇〇万円

(6) 記念式典・開会式 一三〇〇万円

(7) 春のファミリーウォーク 六〇〇万円

(8) 夏のファミリージャンボリー一五〇〇万円

(9) メインイベント 一億円

(10) 秋のファミリーフェスティバル一三〇〇万円

(11) 閉会式 四〇〇万円

4(一)  被告は、原告に対し、平成五年九月一四日付で「貴社には町制施行四〇周年記念行事のコンサルタントを決定するための企画競技に当たり、立派な企画書の提案を賜り誠にありがとうございました。つきましては、去る九月八日の審査会において慎重に選考しました結果、貴社に決定しましたので、その旨通知します。」との通知書(甲第六号証、以下「本件通知書」という。)を発した(その趣旨については争いがある。)。

(二)  被告と原告は、同年一〇月一日、町制施行四〇周年記念行事企画策定コンサルティング業務(以下「基本計画策定業務」という。)について、委託期間を同日から平成六年三月二二日までとし、業務委託料を二九八万七〇〇〇円とすること等を内容とする業務委託契約書(乙第一号証)に調印し、また、同月八日、町制施行四〇周年記念行事イベント講座実施業務(以下「イベント講座実施業務」という。)について、委託期間を同日から平成六年三月一八日までとし、業務委託料を一〇〇万円とすること等を内容とする業務委託契約書(乙第二号証)に調印した。

5(一)  平成六年三月三一日、研究部会(ワーキンググループ)が町制施行四〇周年記念行事企画委員会(以下「企画委員会」という。)に提出するための「イベント実施概要〈基本実施運営案〉」(甲第五号証の2)が作成され、同日、企画委員会が被告町長に提出するための「基本計画報告書」(甲第五号証の3、以下「本件基本計画報告書」という。)が企画委員会名義で被告町長に提出された。

同年四月一日、企画委員会は解散し、ワーキンググループは「炎の伝説」実行委員会(以下「実行委員会」という。)に改組された。

同年五月九日、被告は原告に対し、前項(二)の基本計画策定業務の業務委託料二九八万七〇〇〇円及びイベント講座実施業務の業務委託料一〇〇万円をそれぞれ支払った。

(二)  財団法人電源地域振興センターと原告は、同年四月二七日、イベント講座指導について、委託期間を同月から平成七年三月までとし、業務委託料を二八〇万〇九六〇円とすること等を内容とする業務委託書(乙第一一号証の1)に調印した。

(三)  被告と原告は、平成六年六月二〇日、町制施行四〇周年記念行事実施計画策定業務(以下「実施計画策定業務」という。)について、委託期間を同日から平成七年三月三一日までとし、業務委託料を三四五万五六五〇円とすること等を内容とする業務委託契約書(乙第三号証)に調印した。

(四)  原告は、平成六年八月一一日に「予算計画(初年度)」(甲第五号証の4)を、同月三〇日に「基本展開案及び初年度予算見積書」(甲第五号証の5の1ないし3)及び「概算見積書について」(甲第五号証の6)を、同年九月五日に「『炎の伝説』(名称検討中)基本展開案」(甲第五号証の7)を、同年一〇月一二日に「プロローグイベント『火起こし式』進行ストーリー」(甲第五号証の8)を、それぞれ被告に提出した。

6  同月三一日、第一回町長報告会が行われ、「基本展開案並びに予算案報告書」(甲第五号証の9)が、企画検討・実行委員会、総合プロデュース・林、企画支援・原告の連名で町長に提出された。

原告は、同年一一月七日に「『炎の伝説』通年海上型展開案及び予算案(概算)」(甲第五号証の10)を、同年一二月七日に見積書(甲第五号証の11)を各作成した。

7  同月二二日、第二回町長報告会が行われ、「『わかさ大飯のスーパー大火勢』〜四〇周年型〜基本展開案並びに予算案」(甲第五号証の12の2)、「『界隈型イベント』『エピローグイベント』予算案」(甲第五号証の12の3)及び「『わかさ大飯のスーパー大火勢』〜通年型〜基本展開案並びに予算案」(甲第五号証の12の1)が、企画検討・実行委員会、総合プロデュース・林、企画支援・原告の連名で(ただし、「『界隈型イベント』『エピローグイベント』予算案」には総合プロデュース・林の名義はない。)、町長に提出された。

原告は、同月二七日、「わかさ大飯のスーパー大火勢〈四〇周年催事の全体予算修正案〉〈全体構成要素/業務分担について〉」(甲第五号証の14)を作成した。

8  平成七年一月一五日、火起こし式が実施された。

9  原告は、同月三〇日に「わかさ大飯のスーパー大火勢〈四〇周年催事の全体予算修正案〉〈全体構成要素/業務分担について〉」(甲第五号証の14)を、同年二月二四日に「わかさ大飯のスーパー大火勢〈四〇周年催事の全体予算修正案〉〈全体構成要素/業務分担について〉」(甲第五号証の15)を、同年三月三日に「『わかさ大飯のスーパー大火勢』基本展開案概要書」(甲第五号証の16)を、同月二三日に「わかさ大飯のスーパー大火勢〈実施会場設定及び台船設定のご提案〉現場スタッフによる実施提案」(甲第五号証の17)を、同年四月二四日に「『わかさ大飯のスーパー大火勢』基本実施演出計画」(甲第五号証の18)を、同月二七日に「『わかさ大飯のスーパー大火勢』基本実施演出計画」(甲第五号証の19)及び「『わかさ大飯のスーパー大火勢』進行素案」(甲第五号証の20)を、同年五月一七日に「『わかさ大飯のスーパー大火勢』基本実施演出計画」(甲第五号証の21)を、それぞれ作成した。

同月二七日ころ、「『わかさ大飯のスーパー大火勢』実施計画書」(甲第五号証の22、以下「本件実施計画書」という。)が、計画検討/策定・実行委員会、総合プロデュース・林、計画策定支援・原告の連名で作成された。

10  原告は、被告に対し、同年六月二日に見積書(甲第七号証)を提出し、同月七日にも一部修正した見積書(甲第八号証)を提出したが、被告は原告に対し、同月二六日、原告を不採用とする旨(原告に実施委託はしない旨)通知した。

メインイベントは、同年八月一一日、被告町民で構成される実行委員会によって実施された。

二  争点

1  本件委託契約又はその予約の成否

(原告の主張)

(一)(1) 原告は、平成五年八月二〇日、被告に対し、プロデューサーが特定され、七つのイベント及びイベント講座の趣旨・内容・時期・代金見積が明示された本件企画書を提出し、もって右イベント及びイベント講座の計画・準備・実施を代金一億九九〇〇万円で委託を受け実施する旨の本件委託契約の申込の意思表示をし、被告は、同年九月一日、本件企画競技に応募した原告、第一法規出版株式会社及び株式会社ぎょうせいの中から、原告の企画を採用する旨口頭で通知し、さらに同月一四日付の本件通知書で同旨の通知をなし、もって右口頭通知の日(遅くとも文書通知の日)に、被告と原告との間で、本件委託契約が成立した。

すなわち、本件企画競技は、競争者が互いに他の競争者の条件を知ることができない形で行われた契約の競争締結(一方の当事者に競争させて、比較的に最も有利な条件で契約を締結する方法)であり、原告の本件企画書の提出は、被告の競争締結の契約の誘引に応じてなされた契約の申込であり、被告による本件企画書の採用は、その承諾である。

(2) 仮に契約書を作成するまでは契約の成立が認められないとしても、少なくとも、被告が原告の企画を採用した時点において、原告と被告とは互いに相手方に対し企画書に記載されたとおりの七つのイベント及びイベント講座に関する計画・準備・実施に関する委託契約を締結する義務、すなわち、原告及び被告は互いに右委託契約を内容とする契約書に記名押印して本契約を成立させる義務を負うに至ったものであり、予約が成立している。

(二) 被告は、原告の提案した本件企画が採用されたわけではなく、単に原告が企画コンサルタントとして採用されただけであり、個別の契約はその後随意契約によって締結されるものであると主張する。

(1) しかしながら、本件企画競技は、競争参加者に企画の優劣を競わせる趣旨のものであって、本件企画の採用をするか否かを未定としたまま、すなわち記念イベントの内容を特定しないまま、内容白紙の企画のコンサルタントだけを決定するようなことはあり得ない。

本件企画書の内容を見ても、記念イベント(特にメインイベント)を実施する実戦部隊(ゼネラルプロデューサー、各種ディレクター及びスタッフ)として林を中心とする原告側の人材(プロスタッフチーム)を予定しており、通知書(甲第六号証)の「コンサルタント」という用語は、組織上の形式的な意味での助言・提案・指導のことであり、現場での実際的な意味では、実戦部隊として自ら業務を行うことを意味する。

(2) また、基本計画策定業務についての業務委託契約書(乙第一号証)、イベント講座実施業務についての業務委託契約書(乙第二号証)及び実施計画策定業務についての業務委託契約書(乙第三号証)は、いずれも本件企画書と内容的、手続的に関連し、本件委託契約の一部が契約書の形にされたものである(あるいは本件委託契約の予約に基づく本契約締結義務の一部が履行されたものである。)。

すなわち、内容的には、基本計画策定業務についての業務委託契約書(乙第一号証)は、本件企画書の内容を更に具体化した計画を策定しそれをワーキンググループ名義の「提案」及び企画委員会名義の「報告」の形式でまとめることを、実施計画策定業務についての業務委託契約書(乙第三号証)は、本件企画書及び企画委員会名義の本件基本計画報告書を本番用の台本の形に練り上げることを、それぞれ内容とし、イベント講座実施業務についての業務委託契約書(乙第二号証)の内容は本件企画書記載のとおりである。

手続的には、地方公共団体が随意契約により契約を締結することは、例外的なものとして厳格に制限されており(地方自治法二三四条二項、同法施行令一六七条の二第一項)、地方公共団体の契約締結の公正を確保するため、競争締結が原則とされているが、基本計画策定業務及び実施計画策定業務に関する各業務委託契約書(乙第一、第三号証)は、イベントの実施委託の対価の支払がイベント実施後になることが予想されたことから、それまでのつなぎの趣旨で被告が適宜決めた金額を支払うための決済手続用として形式的に作成されたものであり、その前提として原告が提出した見積書(甲第九、第一〇号証の各1)も、被告企画情報課の指示のまま原告が形式的に記載し、また、右見積書の提出と同時に提出された他社の見積書も、競争締結の体裁を整えるために被告の指示に従い原告が他社名義で作成提出したものであるが、このような処理は、企画競技により実質的に成立した本件委託契約ないしその予約が業務の進展に応じて徐々に書面化されていったものの一部と解して初めて正当化される。

(三) 被告は、地方公共団体が契約につき契約書を作成する場合においては契約当事者双方が記名押印しなければ契約は確定しない旨を規定する地方自治法二三四条五項などを根拠に、双方の記名押印した契約書が作成されていないから契約は成立していないと主張する。

しかし、本件は「地方公共団体が契約につき契約書を作成する場合」には該当しない。

また、そもそも、地方自治法上の諸規定に違反した契約の締結については、地方公共団体の内部においてその責任が問われることがあっても直ちに外部に対して契約の無効を生ずるものではない。

さらに、原告が、平成五年八月二六日、被告役場において本件企画書について説明した際、被告町長は、原告の企画が最も優れておりこれを採用すべきである旨を発言するなど明らかに企画競技の手続を主導し、また被告は原告に対し、企画が採用されたとしても双方の記名押印のある契約書を作成しない限りは契約は成立しない旨の説明を全くしておらず、このような場合にまで、競争に勝った場合の成約を信じて多くの人材と費用をつぎ込み本件企画競技に参加した原告に対し、契約書が作成されていないことを理由に契約の不成立を主張することは、権利濫用ないし信義則違反である。

(被告の主張)

原告の主張はいずれも否認する。

(一) 本件企画競技は、企画の優劣を競争するものではあるが、競争入札ではない。

すなわち、本件企画競技は、専門家でなければ作業できない部分について専門的立場から指導・助言を与える業者をコンサルタントとして採用するために実施されたものであり、入札に付する旨の表示、落札通知、落札者との契約書への記名押印がない上、最優秀な企画として採用された原告の企画のうちどの部分を採用するかの実行委員会の検討と取捨選択が企画から実施へと進む段階で行われることとなっていたことなどから、原告をコンサルタントに決定したことが直ちに総額一億九九〇〇万円に上る本件委託契約の締結ないしその予約を成立されることを承諾したことにはならない。

そして、被告は、原告の指導助言を得るため、地方自治法二三四条二項、同法施行令一六七条の二第一項二号の随意契約の規定に基づき、乙第一ないし第三号証のとおり個別に契約を締結した。

(二) 地方公共団体との契約は、その締結手続が入札であっても随意契約であっても、業務委託契約については契約金額が三〇万円未満の場合を除き、契約当事者双方の記名押印のある契約書を作成することがその成立要件であり(地方自治法二三四条五項、大飯町財務規則五五条ただし書、五六条、一二六条)、本件委託契約についての契約書は作成されていないから、本件委託契約は成立していない。

2  契約締結上の過失ないし不法行為

(原告の主張)

(一) 原告は、平成五年八月二六日、被告役場において町長も出席している場において本件企画書の詳しい説明を行ったところ、町長自ら、原告の企画が最も優れておりこれを採用すべきである旨の発言をし、現に原告の企画が採用されたことにより、それに沿った内容の記念イベント実施に関する委託契約が締結されるものと期待した。

その後、原告は被告に対し、別表「記念イベントの計画・準備・実施のために投入した人材及び人件費・交通宿泊費等の明細」(以下「人材投入表」という。)のとおり、改めて本件企画の趣旨や日程などにつき詳しい説明を行った上、本件企画のとおりイベント講座を実施し、それと併行して、本件企画のスケジュール案と組織案に従い、プロデューサーの林を中心とする原告側の人材延べ数百名を投入し、企画委員会やその下部の研究部会(ワーキンググループ)の会議等に同席させ、現地調査、現地取材、被告企画情報課との打ち合わせなどを行わせ、町長報告会に出席させるなどして、本件企画に基づく記念イベントの実施に向けて計画・準備を進めていった。具体的経緯は以下のとおりである。

(1) 本件基本計画報告書の提出(平成六年三月三一日)まで

本件企画においては、記念イベントの計画段階の組織として、頂点に被告町長、その下に企画委員会、更にその下に研究部会(ワーキンググループ)を置き、研究部会の構成員は、被告役場、各種団体の代表、町民代表、本計画スタッフとすることが予定され、本計画スタッフとは、林を中心とした原告のチームをいうとされていた。「イベント実施概要〈基本実施運営案〉」(甲第五号証の2)及び本件基本計画報告書は、原告が、右組織に沿って企画が上申された形を取るために、本件企画書の一部を焼き直して作成したものである。

この本件基本計画報告書提出までの間、原告社員や林は、被告企画情報課との打ち合わせやワーキンググループとの打ち合わせを行い、また、合計一一回のワーキンググループ会議や合計四回の企画委員会に出席し、ワーキンググループのメンバーに対する取材を行い、記念イベント開催場所の下見を行うなどして、本件企画書の趣旨・内容を被告及び被告関係者に周知徹底するとともに、本件企画書を具体化するための業務を進めていった。

(2) 第一回町長報告会(同年一〇月三一日)まで

原告は、被告から、予算確保のための資料として、本件企画書で予定されていた七つのイベントのうち火起こし式、メインイベント、閉会式の三つに絞り、その概要と予算見積書を提出するよう要請され、「予算計画(初年度)」(甲第五号証の4)、「基本展開案及び初年度予算見積書」(甲第五号証の5の1ないし3)及び「概算見積書について」(甲第五号証の6)を提出した。メインイベントの見積りは、本件企画書では約一億二〇〇〇万円であったが、「予算計画(初年度)」(甲第五号証の4)では、ワーキンググループや企画委員会の希望により内容がグレードアップされて約一億五〇〇〇万円となり、「基本展開案及び初年度予算見積書」(甲第五号証の5の2)では、被告からの予算減縮の要請に応じて約一億三〇〇〇万円となった。

このように、原告社員は、被告企画情報課と打ち合わせを行って、右三つのイベントの内容や見積りを被告の希望に沿うよう多少の手直しを加えたほか、原告社員や林などは、実行委員会に出席し、メインイベントの現地ロケハンを行い、大火勢の取材を行うなどして、イベントの内容をさらに充実させ具体化するための努力を重ねた。

そして、原告は、火起こし式のイメージとストーリーを更に具体化した「プロローグイベント『火起こし式』進行ストーリー」(甲第五号証の8)を作成し、三つのイベントにつき原告がこれまでに被告に提出してきたものを一本化し、町長報告会に提出するために焼き直した「基本展開案並びに予算案報告書」(甲第五号証の9)を第一回町長報告会において提出した。原告社員や林などは、この報告書の作成に当たり、被告企画情報課との打ち合わせを行い、総合調整会議(原告、被告及び実行委員会の三者の意思疎通と調整の場)に出席し、数回の実行委員会に出席するなど、打ち合わせを繰り返して、内容及び見積りにつき被告と実行委員会の了解を得た。

このように、第一回町長報告会までの間、原告社員や林などは、被告企画情報課や実行委員会等において本件企画を更に充実させ具体化するための努力を重ねた。例えば、同年九月一九日の現地ロケハン兼検討会で、上部送電線、町境、養殖真珠筏、保安エリアゾーンなどを総合検討した結果、メインイベントの会場は野球場前を候補地に選定していたので、右候補地の近くに設置されている上部送電線(高圧線)と特殊効果花火の打ち上げ場所との距離を打ち合わせるために、同月二七日、原告社員前田賢治(以下「前田」という。)と特殊効果の責任者である株式会社ギミックの岡田正夫(以下「岡田」という。)は、被告企画情報課課長松宮利近(以下「松宮」という。)、同主事時岡寿尚(以下「時岡」という。)や関西電力職員(送電担当者三、四名)とともに、右候補地における特殊効果花火の安全検討に関する打ち合わせを行い、その結果、保安距離一級指定の花火については最低二五〇メートル、保安距離二級指定の花火については最低二〇〇メートルの距離を置く必要があることが分かった。その他、被告企画情報課の要請により関西電力との間でその協力(約二〇〇〇万円)を得るための折衝を行うなど、準備を進めていった。

なお、被告町長は、第一回町長報告会当日、「基本展開案並びに予算案報告書」(甲五号証の9)について、「人、寄付金及び施設の面でもっと町民参加を図るべきである。」、「以後も毎年行われるものとしてのイベント(通年型イベント)の計画を欠かしてはならない。」、「四〇周年記念イベントは通年型イベントを膨らませたものと位置づけるべきである。」との要望を出し、被告収入役は、「予算案をもっと精査すべきである。」との要望を出した。

(3) 第二回町長報告会(同年一二月二二日)まで

原告は、第一回町長報告会での被告の希望等を勘案して、メインイベントと閉会式の見積りを手直しした「御見積書」(甲第五号証の11)を作成し、右報告会での意見等を勘案して「基本展開案並びに予算案報告書」(甲第五号証の9)のメインイベントと閉会式のイメージとストーリー及び見積り(右「御見積書」と同内容)に手を加えた「『わかさ大飯のスーパー大火勢』〜四〇周年型〜基本展開案並びに予算案」(甲第五号証の12の2)、「『界隈型イベント』『エピローグイベント』予算案」(甲第五号証の12の3)を作成し、被告町長の要望により四〇周年記念行事の後に毎年行う予定の通年型の企画と見積りとして、『わかさ大飯のスーパー大火勢』〜通年型〜基本展開案並びに予算案」(甲第五号証の12の1)を作成した。

原告は、前記各書面の作成に当たって、第一回町長報告会における被告町長や助役の要望等を前提に、被告企画情報課や実行委員会委員長との数回の打ち合わせ、数回の実行委員会や総合調整会議への出席などを重ねて、被告企画情報課及び実行委員会の了解を得た。

その他、原告社員前田や林は、第一回町長報告会で被告町長から要望もあった「住民参加」の方法として考えられた住民による松明行列の参考とするため、同年一一月一二日から一三日まで、被告企画情報課課長松宮、同課長補佐新谷和行(以下「新谷」という。)及び同主事時岡や実行委員会メンバーとともに、福島県須賀川市の「松明あかし」の取材・調査に行き、その結果、スーパー大火勢にも「松明あかし」と同様の音響効果を確保することになり、地元の太鼓チームである大飯ブレーズに依頼することとなった。

また、原告社員前田は、メインイベントにおけるレーザー光線による演出方法の参考にするため、同月一七日、京都嵐山で開催された「美空ひばり追悼コンサート」におけるウォータースクリーン/レーザーの演出効果および使用機材、設営仕込状況等の取材・調査に行ったが、その後の被告の予算減縮要求により、実施計画の中にそれを取り入れることはできなかった。

第二回町長報告会では、被告町長は、企画内容は甲第五号証の1ないし3のとおりでよいとしてこれを了承し、予算については「通年型イベントは三〇〇〇万円、記念型イベントは界隈型イベントを含めて一億円」との要望を出し、被告助役や収入役は、閉会式を含めて一億円との要望を出した。

(4) 火起こし式(平成七年一月一五日)まで

火起こし式の企画は、本件企画書に記載されており、その具体的な演出台本もすべて原告が作成した。

原告社員前田は、同年一二月二六日から二七日、火起こし式の確実な着火方法の研究を行い、その結果、木片の中にニクロム線と油を染み込ませた綿をセットしておき電気を通せば確実に着火することが分かり、当日も右方法によって着火した。プロデューサーの林、原告社員前田外四名は、平成七年一月一四日から一五日まで、火起こし式の準備と実行フォローに尽力した。

なお、原告社員前田は、平成六年一二月二七日、「わかさ大飯のスーパー大火勢〈四〇周年催事の全体予算修正案〉〈全体構成要素/業務分担について〉」(甲第五号証の13)を被告企画情報課に提出して打ち合わせをした際、同課課長松宮から、「町長の査定が出た以上失敗は許されない。」として、「関係業者、機材等の準備に万全を期すように。」との指示を受けた(松宮は、その後も折に触れて原告の役員、社員に同旨の指示をした。)。

(5) 本件実施計画書の提出(平成七年五月二七日)まで

① 予算について

原告は、第二回町長報告会における被告町長、助役及び収入役の前記要望を前提に、平成七年一月三一日の被告との打ち合わせ、同年二月一四日の総合調整会議などを経て、同月二四日の総合調整会議において、予算見積りに修正を加えた「わかさ大飯のスーパー大火勢〈四〇周年催事の全体予算修正案〉〈全体構成要素/業務分担について〉」(甲第五号証の15)を提出し、最終的、確定的な了承を得た。

② 企画内容について

原告は、第二回町長報告会で被告町長が了承した甲第五号証の1ないし3の企画内容について台本化を進め、同年四月二四日にメインイベント本番の進行及び演出の台本として「『わかさ大飯のスーパー大火勢』基本実施演出計画」(甲第五号証の18)を、同月二七日に「『わかさ大飯のスーパー大火勢』基本実施演出計画」(甲第五号証の19)及び「『わかさ大飯のスーパー大火勢』進行素案」(甲第五号証の20)を、同年五月一七日に「『わかさ大飯のスーパー大火勢』基本実施演出計画」(甲第五号証の21)を作成した。

そして、同月二七日、メインイベント本番の進行及び演出の台本の確定版並びに予算見積書の確定版(被告から予算について最終的、確定的に了承を得た甲第五号証の15とほぼ同じである。)として、本件実施計画書を提出し(実行委員会で担当した界隈型イベントの実施計画及び予算案も添付された。)、企画内容についても被告の最終的、確定的な了承を得た。

(6) 予算確定後の本格的な準備

原告社員前田、有限会社イサナクリエーションの野村精司、株式会社ギミックの岡田、株式会社ぷろっとちーむスペースの西村文晴、株式会社ギミックの協力会社の小山佳伸、有限会社イサナクリエーションの松葉美穂その他アシスタント二名は、同年三月一六日、被告企画情報課課長松宮、同課長補佐新谷及び同主事時岡並びに実行委員会メンバーとともに最終会場案絞り込みのための現地調査及び台船調査を行い、また原告は、その前後ころ、台船業者との金額交渉も行った。そして原告は、同月二三日、メインイベントが行われる会場及び台船の設置などに関する具体案として「わかさ大飯のスーパー大火勢〈実施会場設定及び台船設定のご提案〉現場スタッフによる実施提案」(甲第五号証の17)を作成した。

原告社員前田は、同月二七日、被告企画情報課課長松宮及び同課長補佐新谷並びに実行委員会メンバーとともに大島漁協組合長、参事を訪問し、原告が同月三日に被告に提出した「『わかさ大飯のスーパー大火勢』基本展開案概要書」(甲第五号証の16)に基づいて、メインイベントの全体像を説明し、海上の使用につき了解を求めた。

また、原告の代表取締役である斉藤正昭(以下「斉藤」という。)及び社員である東久保勝彦(以下「東久保」という。)並びに前田は、同年四月一八日、被告企画情報課課長松宮、同課長補佐新谷などとの間で、メインイベント実施のための関係諸団体、官庁に対する許認可申請について打ち合わせを行い、その結果、許認可申請書類を原告が作成することになり、原告(ないし原告の委託先)は、必要な許認可申請書類を作成し、原告社員東久保、前田は、被告の要請により、関西電力との間でその協賛を得るための折衝を数回にわたり行い、最終的に二〇〇〇万円相当の仕掛け花火などの提供について協賛を得たほか、原告社員や林は、調整会議や実行委員会の場において、本件企画の具体化及び実施準備を進めていった。この中で、悪天候によってメインイベントが中止になった場合の損害の付保険が議題となり、原告が損害保険会社の代理店から見積りを取ったこともある。

(7) 人材等の確保

原告は、これらの本格的な準備と併行して、本件イベントの成功に責任を負う立場にあり、被告からも関係業者、機材等の準備に万全を期すように(人や物の準備に遺漏がないように)との指示を受けていたため、次のとおり、スタッフや機材の手配、音源(作曲)や特殊効果(特殊の花火その他)を発注し、イベントを現実に開催し成功させるために不可欠の人や物の確保を行った。

① 株式会社二十一世紀ディレクターズユニオン社

プロデューサー(林)

ディレクター(永田祐子)

② 有限会社イサナクリエーション

チーフディレクター(野村精司)

制作ディレクター(松葉美穂)

③ 天野衡児

演出・脚本家

④ 株式会社ぷろっとちーむスペース

演出補(川上勝)

舞台監督(西村文晴)

舞台監督補(永原正義、面田次郎、横道奈那美、倉片公、古川敦嗣)

舞台進行(福井政子、平井豊ほか八名)

舞台進行補(花戸浩、宮崎達次ほか一五名)

⑤ 株式会社大阪協立

照明設営操作スタッフ(照明企画設計現場主任、照明機材操作技師、照明機材設営技師)

電源車操作スタッフ(電源車操作技師)

照明機材(ステージ用スポット、クセノン、調光システム)

電源車

⑥ 株式会社エム・エス・アイ・ジャパン

音響設営操作スタッフ(音響企画設計現場主任、音響機材操作技師、音響機材設営技師)

音響機材(メインスピーカー、サブスピーカー、ミキサー/アンプ、マイク/ケーブル、CD、テレコ)

⑦ 株式会社ギミック

特殊効果設営操作スタッフ(特殊効果企画設計現場主任、特殊効果機材操作技師、特殊効果機材設営技師)

特殊効果(マグネシウム効果、吹き出し焔管、星打ち効果、ぬき星効果、乱玉効果、疑似火炎効果、特殊玉)

⑧ 株式会社ナイスオプティカルアート

レーザー設営操作スタッフ(レーザー企画設計現場主任、レーザー機材操作技師、レーザー機材設営技師)

レーザー機材(アルゴンレーザー、コントロール用コンピューター、レーザー備品)

⑨ 有限会社然

調査スタッフ(調査技師)

桟橋設営スタッフ(桟橋企画設計現場主任、桟橋設営技師)

イントレ等設営スタッフ(イントレ等企画設計現場主任、イントレ等設営技師)

各種借上(イントレ、テント)

⑩ 有限会社ショーカンパニー

音源(レクイエムの作曲、炎の祭典の作曲、儀礼船の作曲、BGMの作曲)

(二) 正当な理由のない解約通告

原告は、被告企画情報課から本件実施計画書に記載されている確定予算(見積り)の項目について直接人件費と直接費に種別分けした上で細分化したものを提出してもらいたいとの要請があり、平成七年六月二日、右要請に沿った見積書(甲第七号証)を提出したが、その当日の会議において、被告及び実行委員会側から「花火の数が少ない。」とか「直接人件費の割合が多すぎる。」などの意見が出た。なお、被告企画情報課課長松宮は別の部署に移っており、同課の新任の課長は池田寛治(以下「池田」という。)であった。

そこで、原告は、直接人件費を減らして直接費の特殊効果の金額を増やすなど若干の修正を加え、同月七日、再度見積書(甲第八号証)を提出したが、その当日の調整会議において、被告・実行委員会側から、「半額くらいに減額した見積書が提出されると思っていた。」、「松明行列とスーパー大火勢は残してその余は花火大会にして減額できないか。」等の意見が出た。

このため、原告社員や林は、「町長報告会で企画内容については甲第五号証の1ないし3の基本展開案でよいとの了承があり、予算については火起こし式、メインイベント、閉会式を合わせて一億円との提示があった。町長報告会の結果に基づき被告企画情報課及び実行委員会の最終的、確定的な了承を得て作成したのが本件実施計画書である。」、「本件実施計画書の予算配分に関しては被告及び実行委員会との協議を経て平成七年二月二四日の調整会議で最終的、確定的に了承された金額に従って作成されている。」、「メインイベントのこの夏の実施に向けて既に最高レベルの特殊効果の業者確保や台船確保などの重要かつ基本的な準備の手は打ってきている。」、「『ランドスケープ型オペラ』という日本で初めてのイベントは本件企画競技において採用された企画であり、その後二年間実行委員会等とも検討を重ねて具体化し準備を進めてきた企画である。」等と述べて反論した。

その結果、池田は、「企画や予算に関してのこれまでの経緯を知らなかった。実行委員会が界隈型イベントや広報活動の予算増を求めるのであれば、委員長は町長と話し合って欲しい。場合によっては原告にサポートをお願いするかもしれない。」旨を述べ、原告も了承した。

しかるに、被告は、原告に対し、同年六月二六日、電話で原告の企画の採用は白紙撤回するとして、原告に対する委託は取り消す旨の通告をした。

(三) 被告の責任

一般に、企画競技を実施した側は、企画を採用した以上、その企画の提出者(考案者)に対し、多少の手直し等は別にして、企画の実現を委託し、企画の提出者は、基本的には企画書の見積金額に相当する委託料の支払を受けるものである(もっとも、企画競技の企画が大規模である場合は、企画が採用され業務委託を受けた段階で直ちに委託業務の全部に関する契約書が作成されるわけではなく、業務実施の進展に応じて節目節目で部分的な契約書が作成され最終的に契約書が完成する形になる。)。

本件でも、被告は、企画競技であることを告知し、被告が求めている企画の内容などについての詳しい説明を行って(なお、予算の上限枠については設けないとの説明であった。)、本件企画を採用し、本件企画書の七つのイベントのうち四つは被告の要望で削除されたものの、火起こし式、メインイベント及び閉会式は、本件企画書を基本として、被告の要望も勘案しつつ具体化・現実化されていった以上、原告が、本件企画書(最終的には本件実施計画書)に沿った記念イベントの実施に関する委託契約の成立を期待し、準備を進めることは当然であり、契約締結の準備が前記の段階にまで至った場合には、被告としても原告の期待を侵害しないよう誠実に契約の成立に務めるべき信義則上の義務がある。

それにもかかわらず、被告は正当な理由なく原告との契約締結を拒否したのであるから、被告は契約締結上の過失ないし不法行為による損害賠償責任を免れない。

(被告の主張)

原告の主張は否認する。

(一) 原告の本件委託契約成立に対する信頼が保護されるためには、少なくとも実施委託についての請負金額について双方の意思の合致が必要であるし、地方公共団体との契約の成立は、少額契約の例外を除き、競争入札であれ随意契約であれ、また、本契約であれ仮契約であれ、双方の意思の合致のほかに、契約書の作成と双方の署名捺印が必要であるが(地方自治法二三四条五項)、本件では、請負代金額についての合意も、契約書の作成も当事者双方の署名捺印もなく、契約が成立したのと同様の保護を求めうるものではない。

(二) メインイベントは、その実施過程において、基本計画を策定し、実施計画を策定し、実施委託に進むという段階を踏むことが予定されていた。

(1) 被告は、原告との間で、平成五年一〇月一日、予め原告からとった見積りどおりの内容の基本計画策定業務についての委託契約を締結し、平成六年五月九日、原告が本件基本計画報告書を完成させたことに対する報酬として、原告に対し、二九八万七〇〇〇円を支払った。

したがって、この期間の経費である別表「人材投入一覧表」の1ないし20は、右契約の約定報酬に含まれている。

(2) 被告は、原告との間で、平成五年一〇月八日、予め原告からとった見積りどおりの内容のイベント講座実施業務についての委託契約を締結し、平成六年五月九日、イベント講座が四回実施されたことに対する報酬として、原告に対し、一〇〇万円を支払った。また、財団法人電源地域振興センターは、原告との間で、イベント講座実施業務委託期間を平成六年四月から平成七年三月までとする委託契約を締結し、原告が九回イベント講座を実施したことに対する報酬として、二八〇万〇九六〇円を支払った。

したがって、この期間の経費である同表の21ないし28は、右各契約の約定報酬に含まれている。

(3) 被告は、平成六年四月一日から同年六月二〇日までの間、被告と被告町内各団体との協議の結果、本件基本計画報告書の中の「春のファミリーウオーク」「秋のファミリーフェスティバル」については従来手掛けた団体が主管することになり、本件実施計画書策定に当たり、火起こし式、メインイベント(界隈イベントを含む)、閉会式の三つのイベントに絞り込んだ。

(4) 被告は、原告との間で、平成六年六月二〇日、予め原告から提出を受けた見積りどおりの内容の実施計画策定業務に関する委託契約を締結し、平成七年五月二九日、本件実施計画報告書完成に対する報酬として(なお、右計画書は委託期間の終期である同年三月三一日より後の同年五月一七日に提出された。)、原告に対し、三四五万五六五〇円を支払った。

したがって、この期間の経費である同表の25ないし78(ただし、26、28を除く)は、右契約の約定報酬に含まれている。

(三) 企画競技での企画が採用されれば当然にその企画の提出者に業務委託して企画が実施されるということはない。

原告と被告との間に本件企画書提出に先行して業務委託に関し何らの具体的合意もなかったし、本件通知書にその点に関し何らの記載もない。本件企画が採用されたのは、他社と比べて、町民による手作りの祭りとすることとそのためのイベント講座が提案されており優れていたためであるが、いかに優秀な企画であっても、企画どおり実施する必要の有無を検討し、優勝者に実施させるための経費が高すぎたり、優勝者の実施計画が被告の意図と客観的に齟齬があるなどの事情があるときは、企画の提出者に対し実施を委託しないなど、取捨選択権を行使できる。

(1) 被告は、原告に対し、実施計画の中間報告を検討する第一回、第二回町長報告会において、原告の集めるプロ集団を中心とした祭りは、被告の目指す被告町民中心の祭りと大きな食い違いがあることを次のとおり明示していた。

① 第一回町長報告会において、被告町長及び収入役が、中間報告である「基本展開案並びに予算案報告書」(甲五号証の9)について、町民総参加型でなければならない、経費がほとんど町外に流れるというのは納得できない、海上型の炎のイベントを主体に通年型がベースになるように考えてくれ等、具体的に要望し、原告の考えているプロ集団中心の祭りを被告が考えていないことはこの時点で既に明確になっていた。

② 第二回町長報告会において、被告町長、収入役は、通年型をベースにメインイベントを計画して欲しい、メインイベント、界隈イベント、閉会式も含めて一億円以内で再度計画して欲しいと発言し、原告の考えている祭りを被告が計画していなかったことはより明らかである。

なお、原告は、第二回町長報告会の後、被告企画情報課課長松宮が、「町長の査定が出た以上失敗は許されない」などと指示したと主張するが、第二回町長報告会は、一億円以内での実施計画の見直しの指示であり、松宮は、これを踏まえた実施計画の策定を完遂するよう述べたにすぎない。

(2) 本件企画の推進については、当初から、原則として実行委員会が実施し、例外的、部分的に専門業者に委託するという方針であり、原告は、コンサルタントとして指導・助言する立場から、企画委員会、ワーキンググループ及び実行委員会は、町民手作り・町民総参加の立場から、基本計画の策定、実施計画の策定段階の関係各庁への許可申請やそのための漁協・真珠業者への同意取り付け作業等につきそれぞれ協力・協同したのである。なお、平成七年一月一五日に実施された火起こし式は、町民の協力を得て実行委員会が実施したものであって、原告社員からは、実施に当たっての助言もなく、当日の準備等について全く関与しなかったが、これも、例外的、部分的に専門業者に委託するという当初からの方針どおりであり、原告社員も十分認識していた。

(3) 本件では、被告が、本件実施計画書による実施委託について検討していたところ、平成七年六月二日及び同月七日に、原告より見積書が提出された。しかし、原告の見積りは、人件費の占める割合が高すぎ、花火が近隣専門業者の同じ見積りの二倍以上と高額にすぎ、また見積りの配分についても界隈イベント、広報経費に力点を置かず、メインイベントのみに予算をかけすぎているなどの問題があったので、採用できないと判断した。

したがって、原告が、いかなる思惑でいかなる経費を負担して実施委託に備えていたとしても、それらの損害は契約交渉に当然付随するリスクである。

3  損害

(原告の主張)

原告は、被告が本件委託契約ないしその予約の一方的解除又は契約締結上の過失ないし不法行為によって、以下のとおり損害を受けた。

(一) 人件費・交通宿泊費等 二二〇六万二〇八〇円

原告は、記念イベントの計画・準備・実施のため内部・外部の人材延べ数百名を投入し、別表「人材投入一覧表」のとおり、人件費、交通費、宿泊費、通信費及び資料作成費相当額の損害を被った。

(二) キャンセル料 二一五八万九二九〇円

原告は、記念イベント実施のために不可欠の人や物を確保すべく締結した前記各契約のキャンセル料の負担を余儀なくされ、別表「記念イベント開催に不可欠の人・物の確保のための諸契約及びキャンセル料の明細」のとおり、キャンセル料相当額の損害を被った(なお、特殊効果のキャンセル料については、株式会社ギミックの配慮により五〇〇万円減額された。)。

(三) 弁護士費用 四〇〇万円

(被告の主張)

原告の主張はいずれも争う。

(一) 原告の主張(一)について

原告主張の人件費等の経費が仮に発生していたとしても、それらはいずれも、被告が原告との間で個別に締結した業務委託契約に基づく業務遂行のための経費である。そして、右契約は請負契約であり、仕事の完成に要した人件費等一切の経費は請負代金額に含まれて支払われるものであるから、約定報酬以外の金銭は請求できない。

(二) 原告の主張(二)について

原告は、第二回町長報告会で被告町長により企画内容が了承され、町長及び助役から示された予算額に基づいて予算(見積り)を確定した段階以後、人材等の確保のため業者に発注したと主張する。

しかしながら、第二回町長報告会は、実施計画が未だ出来上がらない段階であり、このような段階で、完成した実施計画を検討した後になされるべき実施委託契約を締結することはできないことを原告は知っていたはずである。しかも、原告は、被告に対し、平成七年四月一八日、メインイベントなどの実施委託契約を資材購入費、専門業者発注費の前払条項を入れて締結して欲しい旨の申し入れをしたが、メインイベント最終実行計画案の作成・決定が急務であるなどを実行委員会、被告企画情報課及び原告との間で確認しており、原告は、本格的準備行為に入るためには、平成七年度の実施委託契約が必要であることを認識していた。

したがって、原告が平成六年一二月二二日から右各業者に発注していたというのは信じがたいし(右段階で原告から右のごとき発注の報告はなかった。)仮に右発注が事実であるとしても、原告が独断で見込み発注をしてしまったにすぎない。

なお、実際、実行委員会が平成七年六月二六日以降メインイベントの準備に入って同年八月一一日の本番に間に合っており、行事内容に差があることを割り引いても、前年一二月から本格的準備行為に入る必要は全くなかった。

三  証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

第三  争点に対する判断

一  〈証拠略〉によれば、以下の事実を認めることができる。

1  被告は、昭和三〇年、佐分利村、本郷村及び大島村が合併して町として発足し、昭和四五年に過疎地域の指定を受けたが、その後、原子力発電所を誘致し昭和五四年に発電所の営業運転が開始され、それを一つのきっかけとして、新たな町づくりに取り組み始めた。

昭和六〇年、被告町制施行三〇周年記念行事が行われるに当たり、町制施行三〇周年記念行事企画委員会から、将来、被告町民全員が参加できる祭りの検討がなされるよう被告に対し要望があった。

2  被告企画情報課は、平成五年ころ、平成七年開催予定の町制施行四〇周年記念行事の企画に当たり、企画委員会の設置と併行して、専門的立場からの指導、助言を得るためのコンサルタントとしての業者を選定するため、株式会社ぎょうせい、第一法規出版株式会社及び原告により本件企画競技を行うこととした。なお、原告は、平成三年に被告から原子力広報要覧の制作の委託を受けたことがあった。

そして、被告は、平成五年七月九日に実施した企画競技説明会において、株式会社ぎょうせい、第一法規出版株式会社及び原告に対し、本件企画競技は、町制施行四〇周年記念行事の企画に当たり、専門的な立場から指導、助言等を受ける業者選定の参考に資するために行うこと、本件企画競技への参加報酬は税込で一社一〇万円とするが、業務を委託されたときは支払わない等の説明をした。

3  同年八月六日に企画委員会が、同月三一日にワーキンググループが、それぞれ発足した。

4  原告が被告に対し同年八月二〇日に提出した本件企画書は、基本的コンセプトがしっかりしている点及び町民のためにイベント講座を行うという点において他の二社より優秀であるとして、被告は原告に対し、同年九月一四日付で、「貴社には町制施行四〇周年記念行事のコンサルタントを決定するための企画競技に当たり、立派な企画書の提案を賜り誠にありがとうございました。つきましては、去る九月八日の審査会において慎重に選考しました結果、貴社に決定しましたので、その旨通知します。」との本件通知書(甲第六号証)により、被告をコンサルタントに決定した旨を通知した。

5(一)  被告は、同年九月二〇日、原告等から基本計画策定業務の見積りを取り、同年一〇月一日、原告との間で、右業務(報告書の作成)について、委託期間を同日から平成六年三月二二日までとし、業務委託料を二九八万七〇〇〇円(税込)とすること等を内容とする業務委託契約(以下「本件業務委託契約1」という。)を締結した。なお、原告の見積りには、会議出席、レポート作成、最終報告書作成、諸経費及び営業管理費の項目が挙げられていた。

また、被告は、原告との間で、平成五年一〇月八日、イベント講座実施業務について、委託期間を同日から平成六年三月一八日までとし、業務委託料を一〇〇万円とすること等を内容とする業務委託契約(以下「本件業務委託契約2」という。)を締結した。なお、原告が平成五年九月一〇日に被告に提出した見積りには、イベント講座実施運営(講師、アシスタント、記録)、諸経費(交通費等)、制作諸費(資料作成等)及び営業管理費の項目が挙げられていた。

(二)  企画委員会は、被告に対し、同年一二月二七日、中間報告書(乙第九号証の1、2)を提出し、平成七年のイベントは、次年度以降と継続性を持たせたいこと、町外への情報発信力を持つイベントをメインに行い、その前後に町民のコミュニケーションを強化するイベントを数種実施すること、町民主導の運営体制づくりが必要であること等を報告した。

(三)  原告は、平成六年三月三一日、ワーキンググループが企画委員会に提出するための「イベント実施概要〈基本実施運営案〉」(甲第五号証の2)及び企画委員会が被告町長に提出するための本件基本計画報告書を作成、提出し、これをもって、本件業務委託契約1に基づく原告の業務は完了した。

なお、本件基本計画報告書においては、被告の要望により、本件企画書の七つのイベントのうち「夏のファミリージャンボリー」は除外された。

6(一)  同年四月一日、企画委員会は解散し、ワーキンググループは実行委員会に改組された。

(二)  財団法人電源地域振興センターは、原告との間で、同月二七日、イベント講座指導について、委託期間を同月から平成七年三月までとし、業務委託料を二八〇万〇九六〇円とすること等を内容とする業務委託契約を締結した、なお、その見積りには、林の交通費、日当、宿泊費、技能料が挙げられ、その他テキスト制作費として一〇八万八七一〇円が挙げられていた。

(三)  平成六年五月二四日、四〇周年関係課長及び関係団体長合同会議が開催され、本件企画書のうち被告企画情報課の行うイベントは、火起こし式、メインイベント及び閉会式の三つとなった。

7(一)  被告は、原告との間で、同年六月二〇日、実施計画策定業務について、委託期間を同日から平成七年三月三一日までとし、業務委託料を三四五万五六五〇円とすること等を内容とする業務委託契約(以下「本件業務委託契約3」という。)を締結した。なお、その際、原告他二社からの見積書がとられ、原告の見積りには、企画調査(現場下見、全体構想、全体シナリオ)、運営計画、計画書作成、諸経費(交通費、宿泊費等)及び営業管理費が挙げられていた。

(二)  原告は被告に対し、平成六年八月一一日、「予算計画(初年度)」(甲第五号証の4)を提出したが、その企画内容及び見積りともに被告の納得するところではなかった。

同月二二日、原告と被告の間で打ち合わせ会が行われ、被告代表取締役斉藤も出席したが、被告は原告に対し、企画内容及び見積書に被告は納得していないこと、原告の担当者の発言に問題があること、地元の活用をする気持ちがないのかなどと指摘した。なお、原告担当者において、そのころ、「我々は、業者だからいざとなったら退けば済む。」、「町で見積りをして、安価で仕事ができる業者があれば使って貰えばよい。当社は貰えるものさえ貰えればよい。」などと発言したことがあり、被告はこれを問題発言として指摘したものである。

原告は、これを受けて、同月三〇日、「基本展開案及び初年度予算見積書」(甲第五号証の5の1ないし3)及び「概算見積書について」(甲第五号証の6)を提出した。

(三)  同年九月五日、実行委員会、林及び原告、被告企画情報課の間で第一回総合調整会議が開催された。原告は、同日、「『炎の伝説』(名称検討中)基本展開案」(甲第五号証の7)を、同年一〇月一二日、「プロローグイベント『火起こし式』進行ストーリー」(甲第五号証の8)を提出した。

(四)  同月三一日、第一回町長報告会が行われ、「基本展開案並びに予算案報告書」(甲第五号証の9)が提出された。

被告町長は、通年型としてのイベントの位置づけができていない、町民総参加の趣旨が生かされていないなどと発言した。

原告は、これを受けて、同年一一月七日、「『炎の伝説』通年海上型展開案及び予算案(概算)」(甲第五号証の10)を提出し、同月一八日、第二回総合調整会議が開催され、火起こし式の最終予算案などが議題とされた。

原告は、被告に対し、同年一二月七日、見積書(甲第五号証の11)を提出した。

(五)  同月二二日、第二回町長報告会が行われ、「『わかさ大飯のスーパー大火勢』〜四〇周年型〜基本展開案並びに予算案」(甲第五号証の12の2)、「『界隈型イベント』『エピローグイベント』予算案」(甲第五号証の12の3)及び「『わかさ大飯のスーパー大火勢』〜通年型〜基本展開案並びに予算案」(甲第五号証の12の1)が提出された。

被告側は、本来祭りは住民の力で実施すべきこと、予算は、火起こし式、メインイベント及び閉会式すべてで一億円を限度として再度計画を検討するよう指示した。

原告は、これを受けて、同月二七日、「わかさ大飯のスーパー大火勢〈四〇周年催事の全体予算修正案〉〈全体構成要素/業務分担について〉」(甲第五号証の13)を、平成七年一月三〇日、「わかさ大飯のスーパー大火勢〈四〇周年催事の全体予算修正案〉〈全体構成要素/業務分担について〉」(甲第五号証の14)を、同年二月二四日、「わかさ大飯のスーパー大火勢〈四〇周年催事の全体予算修正案〉〈全体構成要素/業務分担について〉」(甲第五号証の15)を提出した。

(六)  その間、同年一月一五日、火起こし式が実施された。

(七)  原告は、同年三月三日に地元警察、消防署、漁業協同組合等への説明用の「『わかさ大飯のスーパー大火勢』基本展開案概要書」(甲第五号証の16)を、同月二三日に「わかさ大飯のスーパー大火勢〈実施会場設定及び台船設定のご提案〉現場スタッフによる実施提案」(甲第五号証の17)を提出した。

同月二七日、被告企画情報課課長松宮ら及び原告担当社員前田は、大島漁業協同組合に対し、メインイベントの実施についての同意を得るための説明に行き、同年四月一二日、その同意を得た。

(八)  同年四月から、被告企画情報課の課長が松宮から池田に替わり、同月一八日、被告企画情報課、実行委員会及び原告の間で打ち合わせがあり、被告代表取締役斉藤も出席し、原告が、大島漁業協同組合以外の関係諸団体への同意について被告及び実行委員会を側面から支援し、関係官庁への許可申請書を作成することとした。

右打ち合わせの際、原告は被告に対し、平成七年度の業務委託契約について、業務着手と同時に資材購入費や専門業者発注費等、実施までの準備段階で相当の経費が必要となるため、それらの経費の前払条項を含む契約を要望したところ、被告担当者は、実施計画の報告書ができていないこと、このため関係者からの同意の取り付けが遅れていること、関係官庁への許可申請行為も遅滞しており、どの時点で契約の締結をするのが妥当かの判断をなす必要があるし、予算の割り振りについても、実行委員会の考え方が決定されなければどうすることもできないなどと述べた。

原告は、同月二四日に「『わかさ大飯のスーパー大火勢』基本実施演出計画」(甲第五号証の18)を、同月二七日に「『わかさ大飯のスーパー大火勢』基本実施演出計画」(甲第五号証の19)及び「『わかさ大飯のスーパー大火勢』進行素案」(甲第五号証の20)を、同年五月一七日に「『わかさ大飯のスーパー大火勢』基本実施演出計画」(甲第五号証の21)を、それぞれ作成した。同日の調整会議において、本件業務委託契約3の業務は終了するとの確認がなされ、同月二七日ころ、本件実施計画書が原告から提出され、これをもって本件業務委託契約3の業務は完了した。

8  原告は、被告に対し、同年六月二日、調整会議において見積書(甲第七号証)を提出したが、被告側は、近隣の花火大会等の全体経費を調べた結果、スーパー大火勢に要する費用が高すぎる、人件費の割合が大きすぎるなどの問題点を指摘した。

原告は、これを受けて、同月七日、調整会議において見積書(甲第八号証)を提出したが、見積りについて被告の納得は得られなかった。

9  被告は原告に対し、同月二六日、原告を不採用とする旨(原告に実施委託はしない旨)通知した。

二  争点1(本件委託契約又はその予約の成否)について

原告は、本件企画競技は、契約の競争締結であり、平成五年八月二〇日、被告に対する本件企画書の提出で本件企画の計画・準備・実施について代金一億九九〇〇万円で委託を受け実施する旨の本件委託契約の申込の意思表示をし、被告は、同年九月一日の口頭通知、遅くとも同月一四日付の本件通知書による通知の日に、本件委託契約が成立し、あるいはその予約が成立したと主張する。

しかしながら、前記認定事実及び前掲証拠によれば、本件企画競技は、専門的な立場からの助言指導が得られるコンサルタントを選定することを目的としており、被告は原告に対しその旨説明しており、本件通知書にもコンサルタントを決定するための企画競技において原告に決定した旨記載されていること、被告の要望で実施するイベントが火起こし式、メインイベント及び閉会式に限定されていき、本件業務委託契約1ないし3のとおり、イベント講座、基本計画の策定、実施計画の策定という段階毎に契約が締結されていることなどに照らすと、被告が当初からイベント及びイベント講座の計画・準備・実施についての業務委託契約ないしその予約について承諾の意思表示をしたことを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

この点、原告は、本件企画書の内容として、原告自らが業務を実施することが予定され、その後に策定された本件基本計画報告書、本件実施計画書も本件企画書と内容的に関連していることを指摘し、また手続的にも、本件業務委託契約1、3における業務委託料の見積りは形式的なものであり、随意契約を厳格に制限し、競争締結を原則とする地方自治法の趣旨からして、本件企画競技において本件企画書が採用され、本件業務委託契約ないしその予約がその時点で成立したと認めるべきである旨主張する。

しかしながら、本件企画競技において原告は、あくまでコンサルタントとして採用されたものであるが、事実上、本件企画書の内容をベースに取捨選択を行って町制施行四〇周年記念行事の企画を具体化し策定することが予定されていたと考えられるから、本件企画書の内容と本件基本計画報告書及び本件実施計画書の内容が関連していることは、何ら異とするに足りない。また、本件企画書の内容において、林を中心とする原告側の人材がイベントの実施を担当することが予定されていたとしても、それは、あくまで提案としての内容にすぎない。したがって、これらの事情をもって、当初の段階でイベントの実施を委託することが合意されていたことまで認めることはできない。さらに、本件業務委託契約1ないし3は、その性質上、随意契約の方法によったとしても、地方自治法の趣旨に反するものではない。すなわち、地方公共団体が契約を締結するに当たっては、当該契約の目的・内容に相応する資力、技術、経験等を有する相手方を選定してその者との間で契約を締結するという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を達成する上で競争入札より妥当である場合には、右契約の締結は、「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」(地方自治法施行令一六七条の二第一項二号)に該当し、随意契約の方法で契約を締結することが許され、右の場合に該当するか否かについては、地方公共団体の契約担当者が、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して、その合理的な裁量に基づいて判断できると解すべきところ、前記認定の経緯に照らし、随意契約の方法をとったことについて、被告に合理的な裁量を逸脱した事実を認めるに足りる証拠はない。なお仮に、右各業務委託契約を随意契約として締結したことに法律上問題があったとしても、それ故に、本件企画競技が契約の競争締結であったとの解釈を導くものではない。

また、原告は、他の自治体等による企画競技において採用された者が、イベントの実施を委託されなかった例はない旨主張するが、仮にそうだとしても、それらの企画競技がすべて契約の競争締結であったとはいえず、結果的に業務委託契約の締結まで進んだにすぎないとも考えられ、コンサルタントの選定という趣旨目的を明示してなされた本件企画競技についての前記認定判断を左右するものではない。のみならず、本件企画競技のごとく、応募者が一定の企画ないしアイデアを有することを評価しつつ、コンサルタントとして採用し、事後の折衝を経て段階的に契約を締結するという手法をとることは何ら不合理ではない。むしろ、予算の上限枠を設けずにフリーハンドで企画を出させ、それを丸ごと採用するか排除するかの二者択一により決するという手法の方が非現実的とさえいえる(企画は優秀であるが、予算規模が合致しないという場合を想定すれば、二者択一ではあまりに硬直的である。)。

さらに、原告は、被告が本件委託契約の不成立を主張することは権利濫用ないし信義則違反であると主張するが、前記認定説示のとおり、被告が本件企画競技につきコンサルタントの選定という趣旨目的を明示していたことや、イベント講座、基本計画、実施計画と段階的に個別に契約が締結された経緯に照らし、仮に、被告町長が、本件企画書について原告が説明した際に、原告の企画が最も優れておりこれを採用すべきである旨を発言し、あるいは被告が原告に対し、双方の記名押印のある契約書を作成しない限りは契約は成立しない旨の説明を全くしていなかったとしても、右主張をもって権利濫用ないし信義則違反ということはできず、右主張は失当である。

よって、原告と被告間における本件委託契約ないしその予約の成立を肯認することはできない。

三  争点2(契約締結上の過失ないし不法行為)について

前記認定説示のとおり、本件業務委託契約1によって基本計画の策定が、同契約2によってイベント講座の実施が、同契約3によって実施計画の策定が、それぞれ原告に委託され、いずれの業務も終了したことが認められる。したがって争点は、実施計画に基づくメインイベント等の実施委託契約の締結を被告が拒絶したことが、原告に対する契約締結上の過失ないし不法行為に当たるかどうかであるところ、原告は、予算については平成七年二月二四日、企画内容については同年五月二七日に被告の最終的、確定的な了承を得て、実施委託契約締結の準備段階に至った旨主張し、証人東久保もこれに沿う証言をする。

ところで、信義誠実の原則は、契約締結に至る準備段階においても妥当し、当事者間において契約締結の準備が進展し、相手方が契約の成立が確実であると期待するに至った場合には、その一方の当事者は相手方の右期待を侵害しないよう誠実に契約の成立に務めるべき信義則上の義務を負い、右義務に違反して相手方との契約の締結を不可能ならしめた場合には、特段の事情のない限り、相手方に対する違法行為として相手方の被った損害につきその賠償の責めを負うべきものと解するのが相当である。

しかしながら、本件において、前記認定事実及び前掲証拠によれば、被告は当初から町制施行四〇周年記念行事は被告町民が主体となって行うことを指向していたため、原告の企画内容及び見積りに不満を持っており、第一回、第二回町長報告会その他原告との打ち合わせ等においてその旨を指摘し、原告はそれに応じて企画内容及び見積りを変更していったこと、被告は、平成五年度の基本計画、平成六年度の実施計画というように各年度で、基本計画の策定、実施計画の策定及び実施という段階を踏むことを予定していたこと、原告が被告に対し、平成七年四月一八日に、メインイベント等の実施委託契約の早期締結を要望したのに対し、被告は実施計画が確定しない限り契約には応じられないとして慎重な態度をとったものであり、原告と被告との間でメインイベントの実施委託契約についての締結日時、案文などについて具体的な交渉がなされた事実は認められないことに照らすと、原告がメインイベントの実施についての業務委託契約の成立が確実であると期待してもやむを得ない準備段階に至っていたとまではいうことはできない。なお、原告が実施委託契約の早期締結を希望したのは、前記認定事実によれば、実施業務の準備段階で必要となる経費の早期支払を求めるためであったと認められるが、被告がこれを拒否した際、被告から原告に対して、契約の締結を待たずに具体的な準備行為をなすことを求めたような事情は本件証拠上認められないし、原告において契約の締結を待たずに本格的な準備行為を開始することを被告に通告したような事情も認められない。のみならず、原告が契約の早期締結を求めたこと自体、本格的準備行為をなすにつき契約締結の必要性があることを認識していたともいえる。

ところで、前記認定説示のとおり、被告は原告に対し第二回町長報告会において予算は一億円の限度と述べたことが認められるが、この発言は実施計画の策定のために予算の大枠を示したにすぎないものであるし、また、証人東久保及び同永井の証言によれば、被告企画情報課課長松宮が町長の査定が出た以上失敗することは許されない旨を述べた事実が窺えるものの、メインイベントの実施についての個別的具体的な指示を与えるものではないから、これによって、被告がメインイベント実施の準備に入る動機となりうるものではなく、右事実が前記認定を左右するものではない。

また、原告は、平成七年二月二四日に予算について被告の最終的、確定的な了承を得た旨主張するが、前記認定のとおり、右時点においては、未だ実施計画策定業務が終了しておらず、その段階ではあくまで予算案にすぎなかったものといわねばならず(予算配分の相当性は、実施内容との兼ね合いで判断する必要があり、その趣旨は、同年四月一八日の被告担当者の前記一7(八)認定の発言に示されている。)、被告が最終的、確定的な了承を与えたものとは認めがたい。

さらに、原告は、本件企画の内容において、林を中心とする原告側の人材が企画の実施を担当しなければ実行不可能であったとして、実施委託契約の締結が必然的なものであったかのごとく主張しているが、本件企画の実施が、原告側人材を措いて余人をもって替えがたいものであったとまで本件証拠上認めがたい(現に、被告は原告の関与なくしてメインイベントを実施している。)、また、前記認定の原告担当者の発言(「我々は業者だからいざとなったら退けば済む。」云々)からすると、原告内部においても、その役割が代替可能であるとの認識があったことが窺えるし、右発言によって被告側にそのような認識を抱かしめたことが考えられる。

結局のところ、本件において実施委託契約が未成立に終わったのは、前記のとおり企画内容及び予算という右契約の重要な部分につき最終的な合意に達しなかったためであり、被告がその都合で契約意思を変更したとは認めがたいし、また被告が、原告において契約締結を待たず準備行為をなすよう具体的に慫慂したり、その契機となる言動をなしたとも認めがたいから、契約締結上の過失を適用して被告の責任を肯認することはできない。

よって、原告の主張は理由がない。

四  以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官田中澄夫 裁判官今中秀雄 裁判官有冨正剛)

別紙計画段階の組織案〈省略〉

別紙実施段階の組織案〈省略〉

別紙記念イベントの計画・準備・実施のために投入した人材及び人件費・交通宿泊費等の明細〈省略〉

別紙記念イベント開催に不可欠の人・物の確保のための諸契約及びキャンセル料の明細〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例